キミイロ

2022年2月21日

なぜ“犬の散歩”から彼のキャリアは変わったのか?

幼いころからの夢だった鉄道員になるという夢を叶えたKさん(男性、当時25歳)

このストーリーは、
自分の内なる声を聴く大切さと
小さな行動を起こす少しの勇気が
時として大きな変化につながることを教えてくれます。

現状にモヤモヤを抱えながらも
一歩前に踏み出すことを躊躇している人の
変化のきっかけになれば幸いです。

「就活しなきゃいけないのはわかってます。だけど気持ちが前に進みません…」


 
初めお会いした際、そんな風に少し暗めの表情で現状を語っておられました。
数か月前まで青果業界で正社員として働いておられたのですが、この先が見えないモヤモヤから退職されました。しかし、辞めたはいいけど、次の仕事をどうやって決めていけばいいのか、という状況でした。
 
 仕事に就かなければならいけど気持ちが前に進まない、そんな葛藤の渦に飲まれているような印象を僕は受けていました。
そこで最初のセッションでは仕事の話は一切なし。まずは日常生活の中から少しでも彩りを感じることができるようにと、好きなもの楽しいことをざっくばらんにお話しました。その中で、ペットの犬を可愛がっていること、散歩に出かけてあげることを教えて頂きました。どうしてそんなにお世話して可愛がってあげることができるのですか?とお聞きすると、「もう寿命も長くないから一緒にいれる時間を大切にしたいんです」と教えて頂きました。最初の1か月くらいは、そんなペットに対する深い愛情を共有して頂くことで、ご自分の愛情深さを噛みしめて頂けるような期間になりました。この時期は、日常生活を通して、ご自身が大切にしている“価値観”という彩りを感じていたのでないかと思います。
 
「実は僕、鉄道員になりたいんです。。。」 
 
さて、そんな風に過ごして頂いている中で、ふと「実は鉄道員になりたいという想いがあります」と打ち明けて頂いた瞬間がありました。詳しくお伺いすると、幼いころから車掌さんに憧れがあって、実は、大学生時代の就職活動でも鉄道業界にチャレンジしていたことがあったのです。しかし、残念ながらどこにも内定にならず、妥協して仕方なく別の仕事を選んだ、ということだったのです。その失敗経験が、転職活動が憂鬱にさせる根源だったのでしょう。
 
そこで僕がお伝えしたのはたった一言です。「よし受けてみましょう!」もしかしたら、そんなあまりにも軽い言葉は、彼にとっては拍子抜けだったかもしれません。
ただし、ひとつだけお願いをさせて頂きました。それは、いきなり応募するのではなく、実際に鉄道員として働いている人に会いに行きましょう、ということです。なぜなら、今の状態だと、あくまで憧れの状態で留まっているからと考えたからです。もちろん運転や敬礼のようなかっこいい側面も確かにあるかと思いますが、きっと鉄道員だからこその苦悩や葛藤もあるはずです。そんな鉄道員の実際を学ぶことで、鉄道員に対する漠然とした憧れから、ご自身にとってよりリアルなものへと近づけて頂きたかったのです。もちろん、深く学んでみた結果、やっぱり違うかもとなれば、それはそれで良いと思います。
大事なのは、少し一歩踏み込んでみて、何をどう感じるか?そこに決して正解はありませんから、ありのままに感じてみて言葉にしてみよう、というわけですね。
 
鉄道員として働いている人は、僕も一緒に探しました。何人か会って頂ける方が見つかり、僕は後ろで見守りながら、アポ取りから質問準備、インタビュー実施まで全てご自身にやって頂きました。
 
「命を預かる仕事。だからこそ、いかに1日を無事故、無違反で終わらせるか」
 
さて、インタビューはどうだったのでしょう。その道30年のベテランの方に出会えたことは、ご本人にとって相当刺激になった様子でした。前のめりで聞いてきたことを教えて頂けるその目は、どこかキラキラと輝いているように見えました。そして、そこで学んできて頂いたことは、確かに鉄道員のリアルでした。その方は、運転の際に人身事故を起こしてしまったご経験があって、一時はノイローゼになることもあったということでした。でも、だからこそ鉄道員は毎日を何事もなく無事故、無違反で終わらせるかに命を注ぐ、そんな仕事だと教わったそうです。決してかっこいいだけではないリアルの奥に、確かな使命感を背負って、仕事に全うする姿がありありと浮かぶようになってきたのでしょう。顔つきがだんだんと引き締まってこられたのを感じました。そうして彼の進むべき道は、決まったのです。これまでの、何となくの憧れではなく、使命感を自分に照らし合わせた上での、自分自身で決めた道です。
 
最も大切なのは、ストーリーをありのまま胸を張って伝えること
 
そこからは、苦手意識の高かった面接特訓の日々です。自分自身で決められた確固たる道、なんとしてでも手にしてほしいと僕も力が入ります。二人の間で、意識したのは世間一般でいうフォーマットに落とし込んだ、どこにでもあるような志望動機や自己PRは辞めましょう、ということ。最も大切なのは、想いとストーリーをありのまま胸を張ってお伝えすること。ただその一点に集中しました。大学時代は上手くいかなかった苦い想い、でもそこから諦めきれずに転職活動に踏み切ったこと、そして実際に働いている人から学びとった確かな使命感、これらオンリーワンのストーリーが伝われば、面接官にも必ず伝わるものがあるはず。
 
1社目。有名鉄道会社の面接は残念ながら不採用でした。電話で頂いたご報告でしたが、心底悔しがられていたのを今でも鮮明に覚えています。そしてもちろんこれは僕も同じ想いでした。
 
出てしまった結果にいつまでも捉われてもいられません。気持ちを切り替えて、2社目。感触としては上々。期待が膨らみます。僕までドキドキしながら結果を待ちます。そして頂いた内定のご連絡。彼が自ら決めた道に通ずる扉が開いた瞬間でした。
 
 
犬の散歩から始まった、新たなキャリア
 
こうして、鉄道員としてのキャリアを歩みはじめた彼ですが、そのはじめは、犬の散歩という一見するとかけ離れたところからの出発でした。ですが、人からみればかけ離れたようなことでも、自分が何を大切にしているのか、本当の想いは何なのか、そこに目を向けることは自分自身を見つめるうえでとても大切なことなんじゃないかと思います。
そして、自分自身を今一度見つめることを通して、自分はどう生きたいのか、ここに向き合うこと、それこそが自分の道を歩む上で最も大切なのだと、彼が教えてくれたような気がします。
 
今彼は運転手になるべく資格試験合格を目指しながら、まずは駅員として職務についています。もちろん大変なこともたくさんあるでしょう。でも、誰かが決めた道ではなく、妥協を重ねた道ではなく、確実に自分が決めた道を生きています。仕事を通して自分の色を放ちながら、日常を彩っています。そのような経験は、これからも起こりうる困難にも自力で超えることのできる糧になるものだと思います。僕は早く彼が運転する電車に乗れる日をとても楽しみにしています。
 
一本の映画のように長くなりましたが、このストーリーは諦めきれないモヤモヤを抱えている人や一歩前に踏み出すことに躊躇している人たちに、きっと勇気を与えてくれるものだと僕は信じています。一人でも多くの人の日常に彩りを感じることができるものになることを願っています。
 

・真面目がゆえに複雑に考えすぎて深刻になることが多い

・人に優しいがゆえに 自分に責任を強く感じてしまうことが多い

・強い想いがあるけれども現状とのギャップに苦しんでいる

・諦めきれない想いをどうすればいいのか日頃からモヤモヤしている

・この社会を良くしたいという想いがあるがやり方・動き方が分からない

・なんとかして人に役立ちたいと思うがどうも上手くいってないように感じる

 

実は、という部分にその人の本来的な価値観がある。

自分を責めることなく、

他人に左右されることもなく

自分が決めた道を進むことができる

新村 佳嗣|shimmura yoshitsugu

新村 佳嗣|shimmura yoshitsugu

「変えたい」のになぜ「でもどーせ」を選んでしまうのか?…ディレクターとして携わった地方創生の現場で、多くのビジョンと人が潰された経験から、創造性が発揮できる環境について関心を持つ。「私たちは変えられる」という空気さえできれば、日本はまだノビシロあるんじゃないかな。

大学院では多様な価値観が政策過程と合意形成にどう影響するのか研究しています。時々行政書士。直感を頼りによく道に迷う。