やさしいHACCP

【特別寄稿】改正食品衛生法とHACCPの制度化

&MIRAIの法務パートナーである行政書士の谷田良樹氏が滋賀県行政書士会会報にHACCP制度化について寄稿した。今回著者の了承のもとこれを&MIRAIに転載し公表する。


 

改正食品衛生法とHACCPの制度化
   ~全ての食品等事業者が対象に~
 行政書士谷田良樹事務所  代表:谷田良樹

 

 

さる6月7日食品衛生法の一部を改正する法案が可決成立し、6月13日に公布された。 2003年(平成15年)以来の大きな改正であり、主な内容は次の通りである(カッコ内は公布日からの施行期日)。

改正の背景・趣旨として厚労省は、

  1. 食のニーズの変化・食のグローバル化の進展といった環境の変化
  2. 広域的食中毒の発生や発生数の下げ止まり等の食品健康被害への対応という課題
  3. 2020年東京オリンピック等の開催や食品の輸出促進を見据え、国際標準に沿った食品衛生管理の必要性

と述べている。これらのうち、飲食・食品業界において特に今後の対応に迫られているのが2のHACCPに沿った衛生管理の制度化である。本稿ではこれを中心に解説する。

 

<HACCPとは>
HACCPはコーデックス委員会※により国際基準として認められた科学的な衛生管理手法である。
Hazard Analysis and Critical Control Pointの略称であり、直訳すれば「危害要因分析と重要管理点」となる。

 その手法は以下に示す手順でおこなわれる。

①原料受入~製造工程~製品出荷までのあらゆる工程において発生するおそれのある生物的・化学的・物理的な「危害要因」をあらかじめ分析(HA)

②工程のどの段階でどのような対策を講じれば危害要因を消滅または許容レベルまで減少できるかを検討し、その工程「重要管理点」を定める(CCP)

③そして、この重要管理点に対する管理基準や基準の測定法などを定め、測定値を記録、継続的に実施すること(モニタリング)が製品の安全を確保する

※国際連合食糧農業機関FAOと世界保健機関(WHO)により設置された国際的政府間組織。

 

HACCPは、1993年(平成5年)にコーデックス委員会からガイドラインが発表されて以降、EUとアメリカで既に義務付け、カナダ・ブラジル・台湾で一部義務付けられ、中国でも導入奨励がなされている。またWTO/SPS協定において、食品の輸入に関して科学的根拠なく自国より厳しい基準を課してはならないことが求められており、国際標準たるHACCPへの対応は避け難い現状にある。

一方で、国並びに地方自治体は、以前からHACCPの周知・啓発を行ってはきたが、中小・小規模事業者ではほとんど導入が進んでいない。これらの下で、まず中小・小規模も含めて、事業者が一般衛生管理を着実に実施できるようにし、その上でHACCPによる衛生管理の手法も取り入れられるようにし、我が国の食品の安全性を高めることを目的としたのがこの度のHACCP制度化である。

 

<HACCP制度化の内容>
上記改正後の条文中、「食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組」がHACCPのことであり、食品等事業者は、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施が義務付けられることになる。対象範囲については、現行の許可34業種に限らず、製造、加工、販売、飲食、流通、保管等、原則として全ての食品等事業者となる※(『最終とりまとめ』)。これは改正点の5の許可制度の大再編・届出制度創設によるフードチェーン全体のカバーと相まって実施されていく。

 ※従来から食品衛生法の対象ではなかった農業・漁業者による食品採取は今後も対象外である。他方で、実態として農業・漁業者が、流通・保管、製造工程を担う場合が多くあり、これは実態把握しながら整理するとされている(例:昆布。漁業者が採取だけでなく乾燥・裁断・包装工程なども行うケースがある)。

 

 事業者の規模等により適用する基準には段階が設けられている。

コーデックスHACCPの7原則
①危害要因分析
②重要管理点の決定
③管理基準の設定
④モニタリング方法の設定
⑤改善措置の設定
⑥検証方法の設定
⑦記録と保存の設定

「コーデックスHACCPの7原則」をそのまま実施できる事業者は「HACCPに基づく衛生管理」、そのまま実施することが困難な小規模事業者等は簡略化された「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を適用する※※改正案説明時には、基準のうち前者を「基準A」、後者を「基準B」と表現されていたが、最終的には本文の表現となった。以下では便宜的に「基準A」「基準B」を使う。

 

基準B適用の事業者は、厚労省HPに各業界団体の作成する手引書が順次公開されており、これらを参考に衛生管理計画を立てることになる。

制度化に事業者が対応しているかどうかは、厚労省では、許可の新規取得・更新申請や保健所の立入り検査時など、行政と事業者との関わりがあるごとに確認され、指導を行うことが検討されている(『説明会 会議録』)。新規の許可申請時は、まだ事業者が事業を開始していないときのため、衛生管理計画の作成の確認の有無等はどうなるか確定していない。既許可業者の場合は、実施の猶予期間内(施行日から1年)に書類作成・体制整備を行わなければならない。これらの点については政省令を待ちたい。

 

<今後の動き>
 国では、HACCPを指導できる人材が少ないことが普及率の低さの原因とし、人材の育成を進めている。県(食の安全推進室)では来年頃から関係条例の改正の検討をすすめるほか、周知の方法として通知、説明会等の開催を検討中とのことである。私見では、2020年頃から小規模事業者のHACCP導入が本格化していくのではないかと予想しているが、国や県の動きと相まって、導入への動きは早まる可能性もあると思われる。

 

<おわりに>
従来、飲食店等の営業許可申請は比較的容易であり、本人申請が主であったと思われる。しかし、今後必要となる衛生管理計画の作成は、HACCPの知識を要するため、行政書士支援による作成も増える可能性がある。ただし基準B適用事業者が主たる顧客と考えられる行政書士も計画作成のためには基準Aレベルの知識を保有しておく必要がある。また、行政書士が、人的リソースの少ない小規模事業者のために「無理なく守れる」衛生管理計画を提案することは、腕の見せ所となるであろう。


<参照文献>
厚生労働省
『食品衛生管理の国際標準化に関する検討会 最終とりまとめ』平成28年12月
『食品衛生規制等の見直しに向けた検討状況に関する説明会 会議録』平成29年12月
『食品衛生規制の見直しに関する骨子案(食品衛生法等の改正骨子案)に関する意見募集について寄せられた御意見について』平成30年3月13日
公益社団法人日本食品衛生協会
『HACCP導入の手引き』平成27年8月
『はじめようHACCP』平成30年2月(小規模飲食店向け)

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新村 佳嗣|shimmura yoshitsugu
行政書士では相続対策、デザイン分野ではコミュニケーションや考え方といった「目に見えないデザイン」を扱う。ある顧客の「山だけ相続放棄できないんですか?」の一言から地域課題に興味をもちGREEN&MIRAIを創業。「美しい未来を創る」べく3足のわらじを必死で履く。 最近自分がギフテッドと判明し生きるのが少しラクになる。 滋賀県行政書士会理事×地域資源・エネルギーコーディネーター