プロジェクト

地域診断WS in多賀町南後谷|空家がない集落の秘密。コミュニティ・トラストが防ぐ空家

2018年10月7日 滋賀県犬上郡にある多賀町南後谷集落で地域診断ワークショップを行いました。

 

地域診断法とは?

地域診断法とは滋賀県立大学の鵜飼准教授が開発した「未来にのこすべき地域の本質は何か」を明らかにする手法で、イアン・マクハーグ博士のエコロジカルプランニングをベースにしています。

生態学的都市計画とも表現されるエコロジカルプランニングは「真に自然と人が調和する都市づくり」を目指す理論。かつての生態系の破壊を伴う無秩序な都市開発から転換し、自然に沿った社会を構築することが持続可能性と豊かさを両立するカギであると示しています。

 

地域環境を気象、地形、地質、土壌、生態系といったレイヤーに分け、それぞれを都道府県単位の広域スケールから集落単位の狭域スケールまでマトリクス分析し、その地域を形成する環境要素と人とのつながりを明らかにします。その分析結果から周囲の自然環境に調和した都市計画を考えることで持続可能な社会が構築可能であることを提唱しました(1969年に!)

 

鵜飼准教授の地域診断ワークショップはいわばエコロジカルプランニングを簡易的に1日で行えるよう改良したワークショップ。

地域住民と「よそもの」が地域を見て歩き、歴史、暮らし、自然、感じたことを共有し、それらのつながりを読み解くことで「未来に継承すべき地域の本質」を見つけ出し、これからの地域ビジョンやまちづくり計画に反映させることで、その地域に最も沿った暮らし方=持続可能で豊かな暮らしを実現させることが狙い。マクハーグ博士の言葉をかりるなら「生態学的まちづくり」といったところ。

私は鵜飼准教授の地域診断法研究会に所属。地域診断にはこれまで「よそもの」として2地域、「ファシリテーター」として4地域参加しています。

5カ所目(多賀町では萱原、川相、につぐ3カ所目)のファシリテーターの舞台がこの度お邪魔する多賀町南後谷。

 

多賀町南後谷集落を訪ねる


多賀町の南後谷集落は高室山の西に位置する人口80人ほどの小さな集落。その歴史は寛永石高帳に後谷村との記載から確かめることができ、大永5年(1525)寂静開基の浄土真宗本願寺派の蓮浄寺があります。

隣の佐目集落から延びる一本道がここの玄関口であり、ちょうど南後谷はその道のつき当り。

 

 

 

周囲を急な山面で囲まれた南後谷には、山からの湧水がおちあった川が流れています。昔から水が豊かなところのようで、周辺の村々が水を求めて争った時代にも渇水に悩んだことはないそう。
その川に沿った一本道が集落に串を通すようにはしっています。
谷あいのため平地は少なく田んぼは見られません。畑はごく小さなものがちらほらありますが、鹿と猿による獣害と日照時間の短さから農業は盛んではないようです。

ミネラルウォーターばりの透明度

 

 

地域診断ワークショップ開催

地域診断ワークショップは基本的に午前10時にはじまりランチタイムを挟んで16時に終了。1日がかりで頭を使うため参加者一同とても疲れます。
ファシリテーターの私はワークショップ開始前から、場の雰囲気や参加者のパーソナリティーを観察したり、これからの流れをイメージしたりと、心地よい緊張感が高まっています。

1日の流れ等は以下の通り。

>地域診断ワークショップの流れ

  • あつまる・なかよくなる
  • きく・かたる
  • ランチタイム
  • みる・あるく
  • はる・つなぐ
  • えがく・つたえあう
  • けいかくする

>参加してほしい人たち(2グループの場合)

  • 地元の歴史や暮らしに詳しい方:2名
  • 地域住民:8名前後
  • よそもの(学生など):4名
  • ファシリテーター:2名
  • 全体進行役:1名
  • 地区担当保健師や役場職員(必要に応じて)

>用意するもの

  • 模造紙(788×1091㎜) 3枚
  • ポストイット(75×75㎜) 4色各3冊程度
  • プロッキー 人数分
  • 名札
  • お菓子・飲み物(隠れ必須アイテム)

あつまる・なかよくなる

地元の方や役場の職員さんと手分けして設営。

ワークショップは地元住民、役場職員、よそもの役の学生、ファシリテーター、そして全体進行役で行います。
地域診断では見て、聞いて、歩いて思ったまま、感じたまま発表できる場づくり&空気づくりがとても重要。なぜならバイアスがかかった情報では地域の本質を見ることができないからです。
今日一日の流れを確認したら一度みんなで輪になって自己紹介。ワークショップは演劇にルーツがあるのでフェスティヴァル感が大事です。

 

 

あまりの盛況ぶりに間仕切りをはずして拡張
どんな会議でも笑顔で開幕すればcreativeになるかも
名札には「今日1日呼んでほしい名前」を。養生テープにマジックが手軽でおススメ。

地域診断では1グループ7名を基準に班分けを行います。

地元住民4~5名、よそもの役2名、ファシリテーター1名が基本ユニット。
あまりに地元住民が多くても各人から十分な意見が聞けず、少なすぎると話が膨らみません。
できるだけ老若男女おりまぜた多様な視点をもった編成が好ましい。

班分けについてはブレスト時のルールが参考になると思います。

 

 

 


きく・かたる

「きく・かたる」では地元住民から地域についてお話しを聞き、よそものがポストイットにメモしていきます。
テーマは【すきなところ・気になるところ・自慢したいところ・昔のはなし・暮らし・祭り・行事】などを中心にファシリテーターが話題をふって話を膨らませていきます。

 

南後谷では5つの班に分かれそれぞれのテーブルで地域の本質を探りました。

私のファシリテーションの進め方は、本題に入る前に
①今日の流れをおさらい
②もう一度自己紹介
③語り合うルール・意見を尊重し、否定しない(ブレストと同様)
④難しく感じても何も心配いらない旨

を説明します。特に④に関しては個人的に重要と感じているポイント。

のちの「えがく・つたえあう」では、地域の本質を非常に限られた時間で考えます。
その際に地元住民&よそものはもれなく≪産みの苦しみ≫を味わうからです。

でもそれは普通∧必要なことなので「途中大変そうに感じますけど最後には素晴らしい地域らしさが見つかります。だから心配しなくて大丈夫ですよ」と不安をコントロールします。
できるだけ楽しんでもらいたいですからね。

ここはまるでお産に臨む妊婦と産婆さんのようだな、と毎回思うところ。

 

最初の発表はよそものが行います。住民の情報から浮かび上がった地域の印象を発表

書き出された情報は模造紙にグルーピングし、「地元住民の情報をもとに感じた地域の印象」を発表します。

この時点ではよそものの視点は入っていません。
ちなみにこの班では右下にガッタリ※というフレーズが地域の特徴としてあがっていますが、私の班では最後まで出ませんでした。

※ししおどしの要領で、流れる水の重さを利用して脱穀する設備をガッタリと呼ぶ。

 

 

 

情報が班ごとに微妙に異なるので発表にも違いが見られて面白いです。

 


ランチタイム

これで午前中は終了。毎度お楽しみランチタイム。
この日は南後谷婦人会の皆さまがご用意して頂いた「南後谷カレー」。絶対うまいやつ(なんだかんだでこの日4杯も食べてしまった)

「同じ釜の飯を食う」の言葉にもあるように、同じものを一緒に食べるのはシンプルに仲良くなれる気がします。
過去にランチタイムのないショートバージョンのワークショップをした経験もありますが、一緒にご飯を食べると場の一体感がまったく違います。
同じ釜の飯を食べると不思議と仲間意識が芽生えるような気が。

まちづくりや地域活動には、よそものや若者、多様性が大事だと言われていますが、そうした色んな立場の人が解けて混ざり合うには「一緒に同じ飯を食う」のが意外と効果的なのかもしれません。

 

南後谷婦人会の皆さまありがとうございました。みんなで配膳
南後谷カレー。米がこれでもかというほどうまい。

ごちそうさまのあとはいよいよ地域を歩きます。よそものの視点が活きる後半へ続きます。

みる・あるく

ランチタイムのあとは班ごとにかたまって地域を歩きます。

地形や自然を五感で感じ、住民の方と地域内の神社やお寺のこと、暮らしのこと、祭りのことなどを雑談しながら散策します。
ファシリテーターはここでも住民とよそものの間に、いい化学反応が起きるよう気くばりするのが望ましい。

もっとも、私は毎度好奇心が先走ってしまいお話と散策に没頭してしまうのですが…。

 

 

南後谷をかこむ山々は杉が植林された人工林と古くからの天然林がグラデーションをなしており、目を楽しませてくれます。

地域の方(まーちゃん)の話では「ここの自然は四季を通じてとても鮮やかで、窓からの眺めですらそれなりに贅沢なんですよ」との談。

集落のどこにいても森林浴をしているような爽やかな空気と川のせせらぎ、鳥のさえずり、木々の鮮やかな緑…贅沢という表現には完全に同意。

お話しを伺いながら地域を歩く。個人的に幸せを感じる時間。
周囲の山々と川のおかげで周辺よりも気温が約3℃低いそう。
集落内はほぼ坂道。自転車に乗ってる人は見たことないなぁ、との談。
囲炉裏付きの東屋。ここでの酒盛りは楽しそうだ。
囲炉裏におなじみの魚が飾ってある。火事除けのお守りの意味があるそうだ。
東屋もこの囲炉裏の左官も住民の方によるもの。いやはや恐れ入る。
再建されたがったり小屋。昔はこれで脱穀していたそうだ。
水の重さを利用して、ししおどしの要領で杵を動かし脱穀する
平地の少ない集落では石垣が多くみられる。野面積みだが、反りや要石など要所を抑えた見事なもの。
石灰岩を産出するためのベルトコンベア
落差による音を軽減するために設けられたウォータースライダー
石清水八幡宮からの神符を奉じてある八幡神社
南後谷集落の位置関係がよくわかるマンホール
南後谷にはこうした山からの湧水が7本集まってくる。
「色々」な緑色に囲まれる南後谷。集落全体が滝の近くのような清涼感があります。

この後は拠点に戻って、まちあるきを通じて各々が得た情報を書き出します。坂道を1時間近く歩いたのでいい運動になりました。


はる・つなぐ

まちあるきで感じたこと、気付いたこと、気になったことを一人ひとりがポストイットに書き出します。

各々が書き出したポストイットの群れをグルーピングし、そのグループを端的に表す見出し:キーワードを抽出。そのキーワードがこの地域らしさを構成する要素になるわけです。

「きく・かたる」ではよそものはメモ役でしたが、この手順ではよそものも自分が感じたこと、気づいたことを書いていきます。地域では当たり前だと思っていたことがよそものには新鮮にうつったり、特別に感じたり…そうしたギャップが外から見た場合の地域の特徴としてあらわれます。

①ポストイット1枚につき1項目を書き、書き終わったものは手元に置いておきます。

②書き終わったら発表タイム。一人1枚ずつ順番に「読み上げて」模造紙に貼りだします。

③同じ意見があれば「わたしも」と乗っかります。(この場合は順番通りでなくてOK)

④手元のポストイットがなくなったら、内容の似ているものでグルーピング。

⑤それぞれのグループに見出し:キーワードをつけます(ピンクのポストイットに赤字)

とにかく頭を使うので糖分補給は欠かせない。ワークショップ中の飲食は自由だ。

おとなりの4班ではこのようなグループとキーワードになりました。
いよいよ次の「えがく・つたえあう」ではこのピンクのポストイットに書かれたキーワードのつながりから地域の本質を見出します。

ワークショップの山場であり、初心者ファシリテーターが泣きたくなる時間です。

えがく・つたえあう

フィッシュボーンの手法を用いて地域で一番大切なものを見つけます。

キーワードのつながりから「その地域をその地域たらしめているのは何か」を見つけ「未来に継承したい□□地区の○○○○」というキャッチフレーズまで落としこみます。

フィッシュボーンのコツ

①キーワードをざっくりジャンルごとにまとめる。

②ジャンル内で優先順位を考え、最も地域の特徴を感じるもの、大切にしたいものを背骨に並べる。

③尾ひれ側から「AがあってBができ、だからC」という具合にキーワードのつながりを整理。

④つながりからキャッチフレーズを考える。みんながしっくりくるまで繰り返し考える!

⑤キャッチフレーズが生まれたら背骨、枝骨を整理しお魚を描いて完成☆

個人的には③の時に「自然があって→暮らし・産業が生まれて→ここの文化ができた」というつながりを意識すると背骨をつくりやすい。
なぜなら人が住む前から自然はあったわけだし、暮らしのないところに文化は育たないからです。あくまで新村流ということで。

 

背骨に近いほど南後谷の特徴が色濃くなる
フィッシュボーンになる前の構成要素をおさらい
最後は住民の方に発表してもらう。こうして伝え合うことで南後谷らしさを再確認する。

 

これで地域診断ワークショップは概ね終了。安堵感と心地よい一体感、そして地域らしさを形作っている大切なものを自分たちの手で見つけた喜び。
一日を通じて苦楽を共にした住民のみなさんとよそもの役の学生たち…毎回好きにならずにいられない。

お疲れ様でした!

 


ファシリテーションを終えて

南後谷で最も印象に残ったのは空家がないこと。
他の地域では「気になっているところは?」との話題に、必ずと言っていいほど空家があがります。

ここ南後谷も他の地域の例にもれず(むしろ早く)高齢化が進んでいます。

なのにどうして空家がないのか?

理由はこの集落の形状とそこで育まれたCultureによるものでした。

コミュニティ・トラストが空家をなくしていた。

山あいの谷間にある南後谷では平地が限られています。
この地で暮らすものとして平地が貴重な資源であることは共通認識。

なので「使わなくなった平地は使える状態にして地域に戻す」というのが当たり前なのだそうです。
もちろん空家の解体費用は所有者負担。

特にそうした取決めがあるでもなく、明文化していないものの「え?よそではそうじゃないの?」というぐらいここでは当たり前。
また、雪深い土地なので「空家からの落雪で集落唯一の道がふさがってしまうから」というのも理由のひとつだそう。

「へ~よそでは空家つぶさんのか?ここは平地少ないでな~、空けたらんとよー。」

飾り気のない言葉から、ここで暮らすものの矜持のようなものを感じました。

これは土地の限られた離島などで発達したリージョナル・トラスト、コミュニティ・トラストの一種です。

私は所有者不明土地とその有効活用について研究していますが、その両方の処方箋になりえるのがコミュニティ・トラスだと考えています。

個人の資産に地域が口を出すのはとても勇気のいることです。
しかし、地域というのは個人が集まって形成されているのもまた事実。

強制力を持った仕組みは所有権の法理からいっても現実的ではないですが、ガイドラインであればつくれる地域も沢山あると感じています。

少なくとも「この地域の未来のためにはどうすることが望ましいのか」を話し合うのはとても意味があることです。

 

ここは地球上にたった一つ

地域診断にはこれまで7回参加していますが、回を重ねる度に地域には地域の数だけCultureがあることを感じます。

それは観光地のようにわかりやすい類のものではなく、つぶさに見てはじめて感じられるほど繊細ですが、その自然環境が育んだCultureとそれに沿った人たちの暮らしが確かにあります。

南後谷は土地は狭いところですが、人の心は(私たちを最後まで泊まらせようとしたほど)とても広いところでした。

ちょっとした気づかいで空家がなくなる…それをサラっとやってる。

ちょうど東京の青山で児童相談所建設反対のニュースが流れています。
「青山ブランドにキズがつく」「セレブの街にふさわしくない」からだそうです。

あちらにはあちらのCultureがあるんでしょうね。

宴。車の私に「おう!泊まってけばええやんけ!何なら送るで!」今度は泊まりで行きます。
ABOUT ME
新村 佳嗣|shimmura yoshitsugu
行政書士では相続対策、デザイン分野ではコミュニケーションや考え方といった「目に見えないデザイン」を扱う。ある顧客の「山だけ相続放棄できないんですか?」の一言から地域課題に興味をもちGREEN&MIRAIを創業。「美しい未来を創る」べく3足のわらじを必死で履く。 最近自分がギフテッドと判明し生きるのが少しラクになる。 滋賀県行政書士会理事×地域資源・エネルギーコーディネーター